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俺は、前世の記憶を持ったまま転生した。前世――地球と呼ばれる世界で、20代になったばかりの頃、俺は会社で猛烈に働いていた。深夜まで残業をこなし、誰よりも早く出社しては翌日の準備や、後輩への仕事の割り振りに頭を使う。その努力が認められ、チームリーダーにも昇進し、仕事も面倒だった人間関係も順調だった――あの瞬間までは。
一瞬の油断。交通事故に巻き込まれ、俺の命はあっけなく終わった。
……頑張って生きてきたご褒美だったのか、それとも、ただの巡り合わせか。理由は分からないが――俺は、新たな世界へ転生を果たしていた。転生先は、魔法が存在し、魔物が闊歩する異世界。しかも俺には、珍しいスキルが備わっているらしかった。並外れた魔力量と、その扱いに天性の才能がある。魔法の覚えも異常に早く、大抵は見ればすぐにその本質を掴み、イメージするだけで使える。知らない魔法も前世の記憶から引き出し、この世界の理に則らずとも発動できるのだから、我ながら恐ろしいほどだ。
前世であれほど必死に働きながらも、死は理不尽で突然だった。だからこそ今度こそ、与えられたこの希少なスキルと魔法を思う存分活かして、最初から“スローライフでのんびりと人生を過ごしたい!”と、強く願った。
生まれた家は平民で、裕福ではないが貧しくもない、ごく普通の家庭だった。自由に遊んでいても文句を言われることのない程度の暮らし――それが、正直ありがたかった。俺が望んでいるのは、豪勢な暮らしでも、莫大な富でもない。少しだけ働いて、趣味の時間を多めに取り、それなりに不自由のない生活ができれば――それで充分だ。
♢幼馴染との日常月日は流れ、この世界にもすっかり慣れてすくすくと育った俺は、毎日幼馴染の友人と仲良く遊び歩いていた。
「ユウヤ、魔物の観察に行こうぜ〜!」
「襲われるから危ないって!」
「それは知ってるって!だからユウヤを誘ってるんだろー!」
毎回、こうして強引に誘われるんだ。危ないって言っているのに、全く聞いてくれない。一体何が楽しいんだろう?
「毎回不思議に思ってたんだけど、なんで魔物とか魔獣の観察なんだ?何が楽しいんだ?」
シャルロットは小さく首を傾げて、驚いたような表情で俺の顔をじっと見つめてきた。……逆に、俺のほうがその反応に驚くんだけど。
シャルのその顔――たぶん、自分が「面白い!」と思ったことは、俺も当然そう思ってるって前提でのリアクションなんだろうな。無邪気というか絶対的というか……こっちの戸惑いなんて、これっぽっちも想定してなさそうだ。
「面白いかぁ?」
「面白いの!私、大きくなったら冒険者になるんだぁ〜!そのための準備かなぁ。ユウヤも一緒に冒険者になろうぜ!な?頼むよ〜!ユウヤの転移が無かったら無理だしさぁ……なぁ〜?」
仲の良い幼馴染、シャルロッテ。その名は、まるで花が咲き乱れる庭園を思わせるような可憐さを宿している。だが、実際の彼女はその印象とは真逆だった。男勝りで剣術に秀で、森を駆ける獣のように俊敏で、力強い。それでも、太陽の光を宿したような金髪と、空の欠片を閉じ込めたような澄んだ青い瞳は、確かにその名にふさわしい美しさを持っていた。
俺は、彼女のことが好きだ。この胸の奥で燻るような熱が、シャルロッテを見るたびに確かにそこにある。けれど、彼女が俺をどう見ているのか――それは、深い森の奥のように掴みどころがない。
毎日のように、まるで当然のように俺を遊びに誘ってくる。そのたびに心が弾む一方で、ふとした瞬間に浮かぶ疑念がある。もしかしたら、俺の“転移スキル”が目当てなだけなのかもしれない、と。
その小さな棘が、胸の奥をチクリと刺す。けれど、彼女の屈託のない笑顔を見るたびに――その痛みは、まるで春風に吹かれる雪のように、静かに溶けて消えてしまうのだ。
「あ〜はいはい……。冒険者は大変じゃないのか?魔物や魔獣と戦うんだろ?」
まあ……家業の農業をやるよりは冒険者の方が面白そうだし、シャルと一緒に行動できるなら良いのかもしれない。シャルを一人にしたら危ないだろうし。
「そのための勉強だよ!だって剣術は習ってるけど本物の武器とかないし、観察をするくらいしかできないしさぁ〜」
剣術と言っても、シャルの元冒険者だった父親から、木の棒で剣術を教わっているだけだ。本物の剣はまだ早いと言われて触らせてももらっていない。そりゃ10歳の子供には持てないだろうし、持たせたら危ない。
それに俺のスキルは、長距離の転移は厳しい。触れているか、近くにいる二人までが限界だ。だけど最近は、離れている物を近くに転移させることもできるようになってきたのは内緒だ。もっと上手にできるようになってから、シャルをびっくりさせたい。彼女の驚く顔が楽しみだ。
近くの森へ入り、魔物と言っているけど、実は魔獣だ。見つけると後を追い、気づかれないように気配を消して観察し、見つかると転移で逃げるというのを繰り返していた。
「ねぇ〜。今の魔獣のやつがリーダーっぽかったよね?」
「そうだな……。体もデカかったし、強そうだった」
「私達で、倒せるようになるかなぁ〜?」
「今は、まだ無理でしょ」
どう考えても無理だ。あれは、ただのオオカミじゃない。巨体が大地を揺らす、牛ほどの大きさの魔獣だ。その眼光は、獲物を射抜くかのように鋭く、体から放たれる威圧感だけで、俺たちの存在を塵に変えてしまいそうだった。俺達は素手だし……何よりも、あんな魔獣を倒してしまったら目立つし、大騒ぎになっちゃう。俺は目立ちたくないんだ!
「今じゃなくてさ〜。大人になったらだよ!」
「そりゃ……訓練をしてるし。そのうち倒せるようになるんじゃないか?」
「だよね?だよね〜!私が前衛で〜ユウヤが後衛で魔法担当だからね!ちゃんと魔法を覚えてよーっ!」
今でも前世での記憶が多少残っているので、自慢目的で高度な魔法を使い注目を集めればどうなるかも想像がついた。だから余計な事をせずに過ごしている。まだ年齢もレベルも低いので、低級の魔獣や魔物は倒せるくらいだと思う。目立たないようにしているので、周りに合わせてレベル上げもしていない。
「任せとけって!シャルよりは、魔法は得意だしなー」
「うっさいっ!私は前衛だから良いの!関係ないのーっ!」
そう、シャルは剣術を覚えるのは得意だけど、魔法がとにかく苦手だ。この世界では、魔法は詠唱を経て発動させるのが基本らしいのだが――その“基本の詠唱”を覚えることからして、彼女にはかなりの壁になっている。
その見た目の可憐さとは裏腹に、性格も気性も考え方も、まさに典型的な前衛の剣士タイプといったところだ。
……とはいえ、剣士でも多少は魔法が使えたほうが、やっぱり便利なんだよなぁ。そんなことを思いながら何気なくシャルを見ていると――
視線に気づいた彼女が、気まずそうな、なんとも言えない顔をこちらに向けてきた。「また見てたでしょ?」とでも言いたげな表情に、思わず俺は視線を逸らす。
「な、なによー!?魔法の練習はしないからね!」とか「あんなの、覚えられるわけないじゃない!私は剣士だし!」とシャルが言ってくる。
「……少しは覚えておいたほうが、自分のためにもなると思うけど?」
「はぁ?魔法の練習する時間があるなら、剣術の訓練をした方がいいに決まってるでしょー!元冒険者のパパが、そう言ってたもん!」
多分……シャルのお父さんも、最初は魔法を教えようとしたんだろうな。だが、途中でその道の厳しさに直面し、諦めざるを得なかったのだろう。冒険者なら魔法の必要性はわかってるはずだ。パーティから逸れたとき、剣術だけじゃ不便だし、何より危険なんだ。飲み水や調理するにも火が必要だし。
「……そうなんだ」
「そうなのっ!」
俺に言い返してきたシャルは、どこか得意げで、満足そうな表情を浮かべていた。その顔を見て、俺は――何も言えなかった。
シャルロッテの、あまりにも純粋な剣術への情熱を前にして、説得の言葉は喉の奥で消えていった。無理に魔法を教え込む自信もないし、押しつけることが正しいとも思えなかった。結局、俺にできたのは、ただ頷くことだけだった。
――きっと、かつてのシャルのお父さんも、同じ気持ちだったのだろう。
最近、つくづく思う。シャルには、苦手な魔法を無理に覚えさせるよりも、心から打ち込める剣術の道を、思いきり伸ばしてあげたほうがいい。そのほうが、きっと彼女にとっても幸せだ。
苦手なことに時間を費やし、苦痛を感じさせるなんて、俺にはできない。……前世で、身をもって知ったことだ。どれだけ懸命に努力し、積み上げてきたとしても、人生は理不尽に、そして唐突に終わる。
だからこそ――今この瞬間を、与えられた時間を、好きなことに費やしてほしい。精一杯、楽しんで生きてほしい。
それが、俺にとって、そしてシャルにとっても、何よりの『正解』なのではないかと、そう思う。
「……助かります。ダンジョンと言っても三箇所ありますし、それがいつ、どこなのかを分からずにユウヤ殿を向かわせるわけには……連絡も取れない状態になるのは得策ではないと判断を致します」(ん〜転移で順番に見回りをすればいいんじゃないの?) ユウヤはそう思ったが、ギルマスとしての立場もあるだろうし……従うか。作戦を立てるのは、明らかにギルマスの方が歴が長いわけだし。ユウヤはギルマスの判断を尊重することにした。「はい。従います。ギルドで待機ですね」 ユウヤが承諾すると、ギルマスは安堵したように息をついた。「はい。情報をギルドに集めるように指示を出すので、その情報を分析して三体がどこに出るのかを探ります。おそらく同じダンジョンだと思われますが……大丈夫でしょうか?」「前回と同程度ならば、問題は無いと思います」 ユウヤは、自信に満ちた表情で答えた。それ以上でも問題ないけどなぁ……むしろそっちの方が楽しめると思うし。その時は……アリアとミーシャには悪いけど転移で帰宅させる。最悪、俺も逃げればいいしなぁ。ユウヤは内心で、そんなことを考えていた。「ここじゃお邪魔だろうし、食堂で待機してますね」 ユウヤが気遣うように言うと、ギルマスは大きく頷いた。「こちらを使って構いませんよ。私も表に出ないといけないので、ご自由にお使いください」「では、お言葉に甘えてミーシャやアリアの休憩をさせるのに使わせてもらうかもしれません」「分かりました。他の職員にも伝えておきます」 ギルマスはそう言うと、ユウヤたちに深々と頭を下げた。「では、行きますか」 ユウヤがミーシャとアリアに声をかけると、二人は頷いた。「よろしくお願いします」 ギルマスの部屋を出ると、ギルドのホールはすでに大勢の冒険者でごった返していた。彼らの顔には、緊張と、これから来る戦いへの覚悟が混じり合っている
ギルマスは、ユウヤの言葉に苦笑しながら、ゆっくりと説明を始めた。その表情には、ユウヤと同じく疲労の色と、少しの困惑が浮かんでいる。「あ、こちらも疲れているだろうなと思い、話を聞きたかったのですが……こちらが、遠慮をしているのに気づかれて、明日もと仰られたかと」 ギルマスの言葉に、ユウヤは「そうだったのか」と納得したように頷いた。「そうなんですね、聞きたいこととは何でしょう?」 ユウヤが尋ねると、ギルマスは少し言い淀むような表情を見せた。言葉を選んでいるようだ。「言いづらいのですが……決して疑っているわけではないのですが、ダンジョンのボスの魔石を拝見できないかと……」 その言葉に、ユウヤはすぐに合点がいった。「あぁ〜討伐証明ってことですね。当然ですよね」 ユウヤは理解を示し、異空間収納から三つの魔石を取り出した。それは、バスケットボール以上の大きさで、他の魔石と比べると明らかに異質だった。怪しげな邪悪なオーラが可視化できるほど放たれていて、触れるのも危険な感じがした。「あ、これは触ったら危険ですよ。多分」 ユウヤが警告すると、ギルマスと受付嬢は顔色を変えた。その肌は、一気に青ざめていく。「……は、はい……雰囲気で、本能が危険だと伝えてくるレベルですね。触ることや、近づくことさえできませんな」 ギルマスは、その魔石から放たれる圧倒的な邪気に、思わず後ずさった。受付嬢も、困った顔をして、テーブルに置かれた魔石を恐る恐る見つめていた。「どこかに運ぶんですか?魔石の移動を、手伝いますけど……他の人は触ることは控えてくださいよ?多分、良くて死にますね……最悪、魔物や魔獣に変わる恐れもありますからね……分かりませんけど。そんな気がします」 ユウヤは、その危険性を改めて忠告した。「これは……
「しかし、ユウヤ殿のパーティがその魔獣を殲滅し、さらに他のパーティや村人たちを治療し、的確な指示を出して救援を行ったことで、被害は最低限に抑えられました。」 ギルマスが淡々と事実を語る。この時、シャルはダンジョンに潜っていて、パーティが瀕死の重症を負っていた時で、村の状況は転移で返されて惨状は知らないんだったな、とユウヤは思い出した。 ギルマスはチラッとシャルを見つめ、彼女が理解できたかを様子見するように話を続けた。「Aランク以上の実力があるという証明になると思いませんか? Aランク冒険者を助けられるほどの力を持ち、実力を伴っているのにCランクのままにしておくのは不利益で、お互いに損ですからね。お分かりになりますか?」「は、はい……分かりました……」 シャルの声は、さらに小さく震えている。「では、次ですな。SSランクというランクは、特別で伝説級と言われるほどのランクで、王国内でもおりません。Sランクが上限でした。そのSランクの冒険者が王都を襲う魔獣の討伐に出向き、瀕死の重傷、死亡者も出す事態となり、ユウヤ殿の噂を聞いた国王陛下が直々に討伐の指名をお出しになられたのです」「はい?」 ユウヤは思わず声に出してしまった。それ初耳なんですけど? 誰からも聞いてないってば? 王国から討伐部隊が出てるって聞いた気もするけど、Sランクだったのか。自分のことなのに、初めて知る事実に驚きを隠せない。「Sランクのパーティや冒険者でも太刀打ちできない魔獣ですよ?そのボスを、1日に3体も討伐し――しかも無事に帰還するという快挙を成し遂げたのです。実力は本物です。私も認め、国王陛下も認められました。」 ギルマスの表情が変わった。さっきまでの穏やかだった雰囲気が消え失せ、鋭い目つきでシャルを見つめていた。国王陛下も認めたことを否定されているからか、その威圧感は増している。「これに異議を唱えるのならば、それ相応の覚悟をしてもらわなければなりませんぞ?ユウヤ殿に助けられた者は数多く、命の恩人として崇める者もいるほどです。村を、家族を救った救世主様―
そりゃ……そうだろ。そんな話を聞いていたら仕事にならなくなる。少しは考えてくれ……。 それに、自分が置かれている立場を理解しているのか? 俺が言うのもなんだけど……命を助けられて、その相手に堂々と嫌がらせ行為をみんなの前で昨日したんだぞ? 俺は気にしてないし、シャルの性格を理解しているからいいけど。特に、慕ってくれるパーティが増えちゃって、周りが許さないだろう……。 もう二人だけの問題じゃなくなってることに気づいてくれってば。ユウヤは心の中で、やれやれとため息をついた。「はぁ……じゃあ、付いてきて。でも、納得したら大人しくしてろよな」 ユウヤは諦めたように肩をすくめ、シャルに提案した。「ん?もちろん、納得したらね」 シャルはユウヤの言葉に、わずかに警戒しながらも頷いた。その瞳の奥には、まだ疑惑の光が宿っている。♢ギルドマスターとの面会 シャルが首を傾げてユウヤを見つめてくる。ユウヤと話していることに、まだ誰にも気づかれていないので、ユウヤはシャルを連れて受付に向かった。「あ、ユウヤ様。今日は、どのような……」 受付嬢が、いつものように丁寧な口調でユウヤに尋ねた。「あ〜えっと、ギルマスに挨拶をと思って」 ユウヤが目的を伝えると、受付嬢はすぐに理解し、柔らかく頷いた。「はい、かしこまりました」「聞いてきてくれる間、受付の中で待っててもいいかな? 人目があるから」 ユウヤは、シャルのことを気遣い、小声で尋ねた。外で騒ぎになるのは避けたかった。「はい。どうぞ、こちらでどうぞ」 受付嬢は心得たように、ユウヤたちを職員用の通路へと案内した。普通の待合室というか、職員の休憩室に通されたが、すぐにギルマスに呼ばれた。「お待たせして申し訳ありません。ギルマスがお待ちです」 受付嬢の言葉
ユウヤが注意すると、ミーシャは小さく「はぁい♪」と返事をして、待ちきれないとばかりに肉串に手を伸ばした。「はむっ! 熱いっ! あつ、あつっ。あわわわぁ、アリアちゃん……焼けてるよね??大丈夫かなぁ? はふぅ……はふぅ……熱いぃぃ……」 まだ、じゅうぅぅ~と音を立てている肉をミーシャが口に頬張り、熱さに涙目になりながらも必死に声を上げていた。その必死な様子が、ユウヤには可愛らしくて仕方ない。「うん。焼けてるよ。大丈夫だよ♪」 アリアが優しく微笑み、ミーシャが差し出す肉の断面を確認してあげる。口に入れた肉が熱くて涙を流しながらも確認を求めるミーシャの姿は、ひたすらに可愛らしく、ユウヤたちの心に温かい感情を呼び起こした。 香草を塗った大きな肉を定期的に向きを変えつつ、肉串を食べていると、アリアが何やら得意げな顔で異空間収納から鍋を取り出した。「あれ?これから作るの?」 ユウヤが思わず尋ねると、アリアはにこやかに首を横に振った。「えへへへ……♪ ううん。ユウくんのマネだよぅ。家でね、下準備をしてきたんだ〜♪ あとは肉串のお肉を入れれば完成だよっ!」 どうやら家でスープを作って、異空間収納に入れて準備をしてきたみたいだ。そういうサービス精神と気遣いが、ユウヤにはとても素敵だと感じられた。 アリアとミーシャの異空間収納は、ユウヤと同じく時間停止が付与されている。なので傷まないし、料理の出来立てを入れれば、出した時も熱々のままだ。「なんだか、昼から豪華な食事になっちゃったな」 ユウヤは、目の前の豪華な食卓に目を細めた。「そうだよね〜♪ ミーシャちゃんのおかげだね〜」 アリアが優しくミーシャを褒めると、ミーシャは途端に顔を赤く染め、なぜかユウヤの後ろに隠れてしまった。 ん……誰から隠れているんだよ。ていうか、肉串が服についてるんですけど。すぐにきれいになるからいいんだけど。
「そうだよ。三人で遊んだことないよっ」 ミーシャが大きく頷きながら、少し不満げに口を尖らせた。「うぅ〜ん……ないよね〜」 アリアも、過去を振り返るように首を傾げた。 朝食を終え、三人は連れ立って村を出て、近くの森へと足を踏み入れた。森の中は驚くほど静まり返っていて、鳥のさえずりや風が木々の葉を揺らす音だけが聞こえてくる。魔獣の気配はほとんどなく、獣を数匹見かけただけだった。 「遊び」と言っても、各々が好きなことに没頭することになった。ユウヤは、獣用の罠を仕掛けたり、木の実を探したりと、自分の趣味に没頭していた。アリアは、しゃがみこんで薬草や山菜の採集に夢中になっている。そしてミーシャは、まるで本能に従うかのように、イノシシを狩っていた。 魔物や魔獣が出ても、今なら一人でも簡単に討伐できるだろう。お互い好きなことをして遊んだ、ということになるのだろうか? これは、本当に三人で遊んだことになるのか、ユウヤには疑問だった。しかし、皆が楽しそうにしているなら、それでいいかと思った。 森に入った感じは、以前と比べて魔物や魔獣の出現率がかなり落ちていて、平和になった印象だ。それでも時折出現はしているので、対応ができる者でなければ危険だろう。 昼近くになり、アリアはユウヤの近くで採集をしていたので自然と合流できた。しかし、ミーシャは獲物を追いかけて遠くに行ってしまったため、ユウヤは仕方なく強引に転移で合流させた。「わぁっ。なに?えっ?」 ミーシャは、突然の空間移動に目を丸くし、混乱した声を上げた。「楽しめた?」 ユウヤが尋ねると、ミーシャはすぐに状況を理解し、不満げに口を尖らせる。「もぉ。今、獲物を追いかけてたのにぃ。楽しめたよっ!いっぱい獲れたぁ〜」 ミーシャは不満を漏らしつつも、異空間収納から獲れた獲物を取り出し、俺たちに見せてくれた。その数、獣が五体も獲れていた。イノシシが三体、シカが二体だった。その獲物の多さに、ユウヤは少し呆れた。 こんなに獲れるなら、売りに行けばかなりの現金収入になるな。「じゃあ、獲れたのを料理して食べたら、村へ行くか」「「はーい」」 アリアとミーシャが声を揃えて元気よく返事をした。 家に帰らずに、森の開けた場所で久しぶりに獲物を解体して、シンプルに味付けをして焼いて食べた。自然の中で食べる肉は、格別だ。滴る脂が